火曜の夜は予定を入れない。木曜も。パトリック・キプファーは料理人として働きながら、稽古の時間に合うように職場を変えた。
Way of Life 第16話『剣道が、真ん中にある』は、パトリック・キプファー(三段・二刀)のポートレート。撮影した道場は Senbukan Luzern。ここから先は、本編の字幕から起こした本人の言葉です。見出しと並びは本編の章立てに合わせています。
長年、それが一週間の錨なんです。まず稽古、そこに自由稽古や、大会が乗っていく。すべては剣道から始まる。剣道が真ん中にあるんです。
すべてが噛み合った
きっかけは偶然、道場の初心者コースを見つけて、見習いを終えたばかりで、時間ができた頃でした。運動がしたかったし、武道にはずっと興味があった。すべてがちょうどいい時に噛み合ったんです。
スポーツ科学を学んでいるので、柔道も、色々な武道も試しました。でも剣道はいわば、最初の恋なんです。柔道から始めていたら、柔道を好きになっていたかもしれない。
でも私は剣道から始めて、最初から好きだった。打ち合いも、稽古の緊張感も——最高なんです。
呼吸のように
今も料理人として働いています。ただ、職場を変えました。勤務時間が稽古時間と合うように。
夜が空けば道場へ週末が空けば道場へ。好きすぎて、もう呼吸と同じ、考えることもありません。火曜の夜は予定を入れない。
木曜も——稽古があるから。長年、それが一週間の錨なんです。まず稽古、そこに自由稽古や、大会が乗っていく。
すべては剣道から始まる。剣道が真ん中にあるんです。
二刀、ゼロから
怪我がきっかけで、二刀に転向しました。いま道場で二刀をやるのは私だけです。私にとっては再出発、ゼロからのやり直しでした。道場の行き帰り、ずっと考えているんです。
声に出す勇気
2019年に一度だけ、日本へ行きました。最初は不思議がられました。なぜスイス人がここに?
と。「剣道をやっているんです」と言っても、伝わらない。それで、面を打つ動きをしてみせたら「ああ、私たちの武道か」と、顔が変わったんです。
観光でも食事でもなく、理由があって来たと伝わった。剣道は本当に多くのものをくれました。姿勢、自信。
そして——大声で、自分を乗り越えること。スイス人と日本人はよく似ています。「すみません」「ご迷惑では」と、丁寧すぎるくらい丁寧。
だから気合の一声は勇気が要る。でも出せば、勇気が返ってくるんです。内気な人には勇気を強すぎる人には静けさを。
剣道をまだ知らない日本の皆さん——ぜひ一度、やってみてください。
このシリーズについて
「Way of Life」は、道を生きる人たちの短いポートレート集です。ひとりにつき、ひとつの言葉。撮影・編集は KAIDO Inc.
